鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第50号(2005年4月27日)

In the last year

滝乃湯

 
 
 幾たび、
 この硝子戸をガラガラと開けて、
 「いらっしゃい」の呼び声を聞いたろう。
 
 「今日の番台は、おじさんかな?おばさんかな?」
 
 絵心くすぐる暖簾をくぐり、
 磨硝子窓に映った人影を想像するのが楽しみだった。

 
 
 薬草の香り漂う褐色の湯につかりながら、
 のどかな山里の田園風景を、
 ぼんやり眺めているのが好きだった。
 
 頬っぺはほんのりさくら色。
 頭上、間仕切りを越えて湯煙がふわり~。
 ふと、お隣 男湯の絵が無性に気になってくる。
 一度でいいから見てみたい。
 やっぱり、ほっと心安らぐ風景なんだろうな…きっと。

ペンキ絵

懐旧

 脱衣所正面 見上げる位置に小型のテレビが1台。
 
 ある夕方、プロ野球は延長戦へ。 
 男性脱衣所から「ウォォ~ッ!」という雄叫びが、
 
 またある夜には、懐メロ特番。
 空っぽの牛乳瓶をマイク代わりに、
 然も気持ちよさそうに口ずさむ寂声を耳にした。
 
 そして閉店間際は、しっとりとニュース放送。
 幼児虐待のTopicsに、
 
 「哀れだねぇ。子供を欲しがってる夫婦だっているのにさ」
 「ホントだよ。そんなに嫌なら、生まなきゃいいのに…」
 
 常連さんの、こんな辛口の会話も好きだった。
 
 
   
 あれはいつのことだったか。
  
 脱衣所の片隅、
 小さな椅子の上にポツリと置かれたノートと鉛筆。
 
 あれから4年が経ち、
 とうとう今年、営業継続は最後の1年となった。
 
 その署名の数は、3625名。
 「いついつまでも」の切なる願いは…。

切望

湯気の向こうに

  
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  感慨無量ですが、
  残りの日々を、感謝を忘れずに、
  大切に営みたいと存じます。
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 さりげなく壁に貼られた1枚のお知らせ。
 
 そう、
 いつだってここには、
 あたたかい「まなざし」と「ぬくもり」があった。