鎌倉好き集まれ!KIさんの鎌倉リポート・第113号(2008年10月30日)

『湘南海岸歩き旅』プレイバック2 ~湘南鎌倉と相模湾岸の農水産業も比べてみよう

【湘南鎌倉】ウィンドサーフィンが集う材木座海岸

【湘南鎌倉】サーファーが集う由比ガ浜

KIです。前回の『湘南海岸歩き旅』プレイバック1では,鎌倉市の海岸で撮り歩いた写真を提示しながら,その周辺地域(相模湾岸)の海岸風景との違いを紹介しました。

1.鎌倉市の海岸は岩礁(崖)と砂浜が交互に現れる。

2.鎌倉市より西側(藤沢市以西)の海岸はどこまでも続く砂浜風景。

3.鎌倉市より東側(逗子市以西)の海岸は次第に岩礁が目立ち,南下するにつれて砂浜が少なくなる。


【西湘】高架道路迫る大磯海水浴場

【三浦】険しい断崖絶壁の荒崎海岸



そして,鎌倉の海を考える上で,避けて通れないのが以下のテーマ。

「湘南はどこからどこまでなのか」

この問題にを考えるにあたって,以前の『湘南海岸歩き旅』レポートで,現在の湘南の中心地は江ノ島周辺エリア,すなわち鎌倉市・藤沢市だろうと結論しています。
 つまり, 江ノ電と背中合わせで,マリンスポーツが満ち溢れる鎌倉の海岸は典型的な湘南的風景というわけです。
 そんな湘南っぽい海の風景がみられるのは,西は大磯海水浴場(大礒町)から東は佐島マリーナ(横須賀市)までだろうという結論を,過去9回にわたる『湘南海岸歩き旅』から導き出しています。
 
 今回は,農業とか水産業の面からもこれら海岸線を歩いて得た結論について検討しました。
 シラス,ミカン,そして野菜(ダイコン・キャベツ)について,鎌倉とその周辺地域を比較しながら見ていきましょう。 

相模湾岸におけるシラス年間漁獲高

(注釈)横須賀の大楠は佐島の北側の漁港地なので湘南に分類し,佐島より南の長井は三浦エリアに分類した

【湘南鎌倉】腰越漁港,釜揚げシラスの天日干し

左の表は平成16~18年の,シラスの年間漁獲高をまとめたものです。なお,神奈川県水産技術センターさんから提供いただいた公表データを使って,自分で3年間の平均値と相模湾岸合計を算出しています。

『湘南海岸歩き旅』の結論に基づいて,相模湾岸に面する各市町を「湘南」,「三浦」,「西湘」の各エリアに色分けしています。
 漁獲高のほとんどが湘南エリアに集中しているのが一目瞭然だと思います(水色に塗りつぶしている部分)。ちなみに,鎌倉市は3年間平均で68.7トンでトップ。相模湾岸全体の22%を占めています。その大半は,腰越漁港(左写真)で水揚げされたものとのこと。
 実際に数値をこうやって眺めると,シラスは「湘南」を特徴づける水産物であることがよくわかっていただけると思います。そして,とりわけ鎌倉を代表する特産物なのですね。

相模湾岸におけるミカン年間収穫高

【西湘】石橋山(小田原市)のミカン果樹園

次に,右の表は平成18年のミカンの収穫高をまとめたものです。神奈川県環境農政部さんから提供いただいた温州ミカン,夏ミカン,及びその合計の数値です(公表データ)。
 「湘南」,「三浦」,「西湘」の各エリアごとに並べてみると,「湘南」の収穫高が圧倒的に少ないことがわかると思います。ちなみに,鎌倉市は温州ミカンが2トンです(相模湾岸全体のわずか0.01%)。
 ミカンの収穫は「西湘」に集中していて,大礒町以西の地域が相模湾岸全体の94.7%を占めていて,「西湘」を特徴づける農作物であるといえそうです(橙色に塗りつぶしている部分)。
 裏を返せば,ミカンの生産が殆どないのが,鎌倉を含む「湘南」の特徴とも言えそうですね。
 ミカンの栽培は丘陵地で行われるのが一般的なので,丘陵地帯がある神奈川県西部(箱根山系)と三浦半島に生産が偏るようです。神奈川県西部では大礒丘陵が広がる平塚市の内陸部あたりから果樹園がちらほらと見受けられて,西へ行くほどその数はどんどん増す傾向にあるそうです。

相模湾岸におけるダイコン&キャベツ年間収穫高

【三浦】三浦野菜(キャベツ)が一面に広がる長井

そして,最後は平成18年のダイコンとキャベツの収穫高をまとめました(右表)。それぞれの収穫高データは神奈川県環境農政部さんご提供のもの(公表データ)で,合計数値は自分が算出したものです。
 「湘南」,「西湘」も生産があり,「湘南」では藤沢市・茅ヶ崎市あたりの収穫高が少し目立ちますが,三浦市・横須賀市で野菜収穫高が圧倒的に多いです(緑色に塗りつぶしている部分)。ダイコン・キャベツを合わせて,「三浦」エリアは相模湾岸全体の91.9%を占めています。
 横須賀市内での野菜の生産分布について確認したところでも,西海岸エリアの北部(秋谷・大楠あたり)では少なく,三浦市に近い長井あたりから,野菜畑がグッと増えるのだとか(JAに確認)。
 いわゆる三浦野菜で有名なダイコン・キャベツですが,どうやら「湘南」の東の境界と「三浦」を分ける良い指標になりそうです。
 「湘南」では,藤沢市・茅ヶ崎市の内陸部が野菜の農業地帯になっているのでそこそこ収穫があり,その延長上の鎌倉市でも生産されていますが決して多いとは言えません。鎌倉市のダイコン・キャベツ収穫高は相模湾岸全体の0.3%に過ぎないのですが,知る人ぞ知る「鎌倉野菜」として,若宮大路の農連市場に出回って,それが小町通りなどの飲食店に買われて,自分たち観光客のお腹を満たしているのかもしれませんね^^

まとめ1 ~農水産業のデータ~

シラス;H16~18の漁獲高平均(左目盛)。 ミカン・ダイコン・キャベツ;H18の収穫高(右目盛)。

ここまで,シラス,ミカン,ダイコン,キャベツに着目して,鎌倉をはじめ「湘南」と, その東西に隣接する「三浦」,「西湘」を比較検討しました。その結果をひとつにまとめたのが左のグラフ(度数多角形)です。

シラスが「湘南」の特産物であるという事実がグラフ上でも一目瞭然です。また,ミカンや三浦野菜は「湘南」には少ないという数値結果もはっきりあらわれています。
 鎌倉の特徴もまた「湘南」全体とほぼ同様の傾向。相模相模湾岸屈指のシラス漁獲地であり(特に腰越),ミカンや野菜の収穫高は大変少ないです。ただ,鎌倉の野菜は地元では「鎌倉野菜」として親しまれていることは前述した通りです。

「湘南」=シラス,「三浦」=三浦野菜,「西湘」=ミカン

『湘南海岸歩き旅』の結果で自分が勝手に分類した各エリアと,農水産物の分布傾向が上記のようにホントきれいに一致してしまいました。

ある意味,それぞれの地域で有名な特産物を選んで分析したからある程度こうなることは予測できたはずだとも言えなくはないですが,まさか,ここまで素直できれいに一致したのには正直,驚きました。
  ・・・ちなみに私事ながら,本業のデータもたまにはこのくらいきれいサッパリいってくれるといいのですがね,あいにく全然程遠いくらい,きたないデータばかりで,いつも苦労の連続です(笑)。

まとめ2 ~湘南のなかの鎌倉~

【湘南鎌倉】晩秋,セピア色に染まる黄昏の稲村ガ崎

2006年から2008年にわたって『湘南海岸歩き旅』で小田原・二宮~三浦市まで,海岸の景観を見て歩いて,「湘南」,「三浦」,「西湘」を分類定義し,それに農水産業のデータを併せて考察しました。風景,マリンレジャー,農水産業の各方面からまとめた結果は右の一覧表の通り。

鎌倉は湘南の特徴として挙げている全ての項目を満たします。内陸には古刹名跡の宝庫で「古都鎌倉」の呼び名が相応しく,海岸エリアは,藤沢と並んで湘南海岸の中心地として「湘南鎌倉」の呼び名が相応しい鎌倉市は,地理的データから見てもやはり関東屈指の観光地なのですね。

・・・ということで,このたび,湘南鎌倉の地理的な特徴について,周辺地域との比較・考察をしたところで,足掛け2年にわたった『湘南海岸歩き旅』シリーズもようやく終了となります。
 肩の荷が下りたような思いでホッとしております。どうもありがとうございました。  

-『湘南海岸歩き旅』完結-

                      (KI)





p.s.今回,神奈川県水産技術センターさんと神奈川県環境農政部さんには農水産業の公表データを提供いただきました。大変ありがとうございました。また,公表データを使って独自に解析・作表すること,及びそれをレポート公開することについて関係機関の了解を得ていることを申し添えます。