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もちださんの鎌倉リポート No.104(2015年1月12日)



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おんめさま


 駅を出て信号をわたってすぐのところにある「おんめさま」大巧寺。産女尊という見知らぬ神様をまつった日蓮宗のお寺だ。

 寺伝では秋山勘解由という人の妻が難産で亡くなり、滑川のほとりでその幽霊に出会った日棟という和尚が供養したところ、子供や安産のまもり神となった。本堂のわきに、その墓(供養塔)というものがある。



産女霊神宝塔
 日蓮宗はむずかしい宗派ではあるが、一面ではイタコやめくら瞽女、歩き巫子といった、流浪のひとびとのつたえ回った、とりとめもない庶民信仰をうけいれる素地もあった。末端では「神がかり(託宣)」や「憑物落とし」などで、たくみに庶民の心をつかんできた。いぜん触れた蛇苦止明神(レポ57)などもそのひとつ。

 じつは産女神も固有のゆらいをもつ神様ではなく、全国各地に伝わる姑獲鳥(うぶめ)という幽霊、あるいは妖怪というたぐいのものだった。姑獲鳥というのは中国の迷信にみられる用字で、「山海経」をはじめとする近代以前の博物誌には、烏賊が変じてカラスになるとか、さまざまな怪奇伝承にことかかない。


 難産で死んだ女が水辺にたち、みちゆく人に子を抱かせようとする。抱いてやると石のように重くなり、運がよければそのまま怪力をさずかったりする。たたり神としては、夜行性の鳥となり他人の子供をとって食う。庶民の心の中には、かつてそういう魔物がたくさん住んでいた。

 子供を食う、というと北鎌倉・円応寺のえんま様の俗信もあるが、一般的には訶梨帝母、一名・鬼子母神のはなしがよく知られている。安養院のむかいにある大町の上行寺の瘡守稲荷堂左の間には、むくむくと太り角がはえた鬼子母神の奇怪な小像があり、昭和のものとはいえ本物の人髪を植えているとかで、その信仰心には心惹かれるものがある。ここも、日蓮寺院だ。



瘡守稲荷堂(参拝自由)
 中国や韓国ではかつて子供をさらってその内臓をとり、秘薬としていた。春秋時代にはすでにおこなわれていたらしく、じぶんの子を調理して王にたてまつった忠臣、なんていうのも語り草となった。日本では安達ヶ原とか合邦ヶ辻とかの奇怪な伝説にも影響している。鬼子母神はかわりに柘榴をたべるようになった、というが、柘榴はもともと多産の象徴として中国で祝われてきた果物だ。

 改心し安産の守り神になった鬼女は、ふつう優しい母親の姿につくられる。ここのは、けして美人とはいえないが、安産型の鬼女にはまだどこかしら太古のヴィーナスのような、愛嬌がある。それにひきかえ姑獲鳥の幽霊画はいかにも凄惨なもので、「おんめさま」にもいっさい掲げられてはいない。



さまざまな神仏がまつられている
 鳥にまつわる話としては、塔の辻の伝説がしられる。奈良時代、由比ガ浜にいた染屋時忠という長者の娘が鷲にさらわれ、無数の肉団子になっておちてきた。鎌倉各所にあった「塔の辻」というのはその落下地点に長者がまつったものだとし、西御門来迎寺につたわる、土紋で有名なあの如意輪観音像が、その追善仏であるのだとか。

 「六国史」には東大寺大仏供養のさい、鎌倉郡の染谷氏(漆部氏)というものが大量の布貨を寄付しほめられた、とあるだけなのだが、いつしか話がひろがっていったらしい。伝説は奈良東大寺開山・良弁僧正(金鷹行者)の誕生説話にも酷似しており、大山寺の縁起では鷲にさらわれたのは「息子」、すなわち幼き日の僧正その人だとする。



こんなお札も
 じっさいに鷲やオオタカがこどもを獲る、などということはないけれど、鎌倉といえばトンビの被害がおおい。たべものをもって歩いていると、電柱のうえなんかから、すきを狙っている。民俗学者・柳田國男は、かつて鴉などに餌付けする「烏勧請」という風習があった、といっている。トンビの好物とされる油揚げはそのむかし、ねずみの天ぷらを指したのだそうだ。

 中世には主に天狗、悪魔とかんがえられ、堕落した生臭坊主のなれの果て、とされた。「天狗草紙」という絵巻には、比叡山をはじめ各宗派の僧侶をたぶらかし、全盛をほこるが、さいごには穢多のこどもに食われて死ぬ。「若鳥はうまい」などと書いてあるが、獲る方法は簡単で、糸の両端に石をつけ、ブーメランのように投げると、えさだと思って食らいつき、巻きついておちてくる、という。


 むかしの人もまた、鳥のことはよくわからなかったようで、松に鶴はたからないから、あれはコウノトリだろうとか、竹に雀はムクドリではないかとか、いろんなトリビア(豆知識)があるという。架空の鳥もおおい。

 たとえば、花札カルタにもでてくる鳳凰。鴆(チン)という悪鳥が毒蛇をくらい井戸に糞をすると、家に病がでる。そこで井戸のほとりに梧桐(あおぎり)を植えておけば、そこに鳳凰という富をもたらす善鳥がすみ、悪鳥とたたかって追い出してくれるのだとか。鴆毒とは尊氏が弟の直義をころした、砒素のこと。原料を加熱昇華させ鳥の羽根をかざして結晶させる。それが毒鳥の正体のようだ。


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