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もちださんの鎌倉リポート No.108(2015年1月24日)



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閉ざされた場所



日本バレエ発祥の碑
 七里ガ浜のエリアナ・パヴロバ記念館は閉鎖されて久しく、碑ばかりがたっている。ロシア革命を逃れて移り住んだバレリーナは、まだ浅草オペラや宝塚、松竹歌劇団などしかなかった日本に、「白鳥の湖」「火の鳥」などの、本格バレエがはじまるきっかけをつくったひと。

 エリェナ・パーヴロヴァ(1899-1941)は母と妹の三人で来日、舞台などに出演するかたわら、この地にバレエ・スタジオをたてた。碑のうしろにみえる個人宅を倍にしたような建物だった、という。


 しろうと同然だった歌劇団を指導して「白鳥の湖」などを上演するが、これはおそらく、エリアナ自身が振り付けしたダイジェスト版だったらしい。プティパ、フォーキンなどといった本場の振り付け・演出が定着するには、まだ長い時間がひつようだったのだ。

 門下生が中心となって本格初演をはたすのはエリアナ早世ののち、戦後まもなくのこと。彼女じしんは過去に花形ダンサーであったわけではない。バレエの普及において、同時期に来日公演をはたした同名のスター、アンナ・パブロワがあたえた鮮烈な衝撃とはおよそ別次元の、地道な努力があった。


 バレエ・スタジオは妹のナデジダさんによってつづけられ、やがて地元の小学生などがかようスクールになっていった。ナデジダさんの死後、スタジオは老朽化のためこわされ1985、ちいさな記念館がたった。借地権などのいざこざからいまは個人宅となっているが、建物のふんいきはにていて、斜地になっているから二階とみえるぶぶんがスタジオにあたる。

 稲村ガ崎にたつ、七里ヶ浜の哀歌の兄弟像にくらべると、碑の下にある母子三人のレリーフはちいさく、かなり地味。日本人のバレエ技術はいまや世界に通用するまでに向上したが、それはあくまで個人レベルの話。いちぶの熱狂的ファンいがいには、まだまだ注目されない分野でもあるようだ。


 閉鎖された美術館などは、まだまだ多い。常盤山文庫はコレクションとしてはいまなお各地の展覧会にでてくるが、建物は文化財保護に適さないという理由で、はるか前から廃墟同然になっていた。笛田のミニストップのわきを入っていったところ、併設された三貴園という料亭がさいきん取り壊され、すでに更地になっている。

 御成小学校のうらにある大谷美術館はホテル・オータニがやっていたもので、もとは社長かなんかの別荘。メインはデュフィ、ローランサンなど。デュフィは野獣派、といわれたマティスをぐっとオシャレにしたような画家。少数の単純化された色彩はフォルムからあふれだし、シアン、マジェンタ、イエロー、ひかりの三原色へと純化されてゆくかのよう、・・・だった。


 どんな事情かはしらない。ただほんものをみられる環境というのは貴重だった。絵なんて、貰ってもすぐに埃になってしまったり、紙灼けしたりで、個人が保管しきれるものではないし、画集なんかでは質感も細部もうかがえない。

 展覧会にわざわざ並んで、説明パネルだけを読んで帰る人がいるのにはおどろくが、見世物小屋みたいな行列ではたしかにうんざりする。題名とか、おおまかな構図なんて、現物をみなくたってわかる。たとえ超有名画家のレアな最高傑作、ではなくたって、しずかに見られる場所、閑古鳥がないているくらいのほうが、ほんとうのいみで、チケットの価値はあるのではないか。

 浄智寺にすんだ日本画のマティス・小倉遊亀さん(1895-2000)など、鎌倉ゆかりの画家は多い。美術館はもっとあってもいいと思う。


 たてものの借地権問題で物議をよぶ、八幡宮の県立近代美術館はコルビュジエのでし・坂倉準三(1901-1969)の設計、いわゆる「無限成長美術館」とかいうコンセプトの建築だ。

 八幡の池の左、「平家をあらわした死の島」のあるほうに、ピロティ(高床)様式の建築が乗り出すようにたっている。かたつむりが成長するように増築が可能な、らせん形の導線が特徴で、のちに師の設計による同趣の西洋美術館(重文)が上野にたてられたが、実現はこちらのほうがはやいから、建築史的な意義は劣らない。



平家池
 ここは新聞屋がくれた無料券をもって、はじめてひとりで絵を見にいったところ。背伸びしてみた記憶があるから、だいぶちっこいころだ。目玉はたしかベルト・モリゾだったのだけれど、ルドンの「黒い絵」とよばれる連作版画の、眼玉の気球にみとれていた、・・・ようなおぼえがある。たぶん、だけど。

 まずはなにより、土地返還後に老朽化した建物の再利用がはたして可能なのか、とわれているわけ。県立近代美術館は別館と称するものがすでに、鶴岡文庫のむかいにできてしまっていて、葉山分館というのもある。なんなら国宝館の分館、なんてどうでしょうか。


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