トップ鎌倉好き集まれ!もちださんトップ 第172号 


▲もちださんトップへ戻る

もちださんの鎌倉リポート No.172(2015年11月5日)



No.171
No.173



水の反映


 来年で閉館する県立近代美術館。そのもっともうつくしい作品はテラスの天井にうつる水面の影。いまは蓮もないので、晴れた日のお昼ころならみられると思う。

 以前は、柱が赤だったり、コルビュジエ建築にままみられるような「原色の」さし色がはいっていた。こんにちの感覚だと、レゴブロック風の色使いではあまりに子供っぽいので、平凡な地味色にぬりかえたりしている。それでも天然のプロジェクション‐マッピングがたゆたうこの時間帯は、建物が溶けるような、ふしぎな未来感覚があじわえる。


 創建当初は中庭にスクリーンを設け、映像をうつしたりもしたという。ピロティ階にある大谷石の壁には幾つもあながあいていて、ここにも光が絵を描く。穴にはガラスブロックがはまっているものもあり、よく磨かれていて中庭がレンズのようにゆがんでみえる。

 閉館まえのさいごの企画展(一月まで)は、古賀春江などユニークな画家の絵も並ぶが、解説プレートをみなくても思わず足が止まってしまうのは松本竣介(1912-1948)、佐伯祐三(1898-1928)の作品群。ポスターにもなっている松本の「立てる像」はおおきな絵だが、丸い雲いがいにほとんど刷毛目もみえないから意外と薄塗りだとわかる。


 大まかな構図とか、日本人作家特有の黒のひきしまったいろ遣いなどは、画集や複製でもわかるかもしれない。しかしマチエール(肌合い)までは、本物をみるほかないのだろう。絵を描くひとなら、細部の微妙な素材感で色の重ね方とか筆の動き、つまりは「描き方」のヒントをつかむことができる。

 じつは現在、遊行寺で「一遍聖絵」の特別展がひらかれている。絵巻は大判、すなわち半紙を横ではなく縦に継いだサイズの絹本なのだが、かなりの細密画であるうえによく練られた薄絹の布目までみようとするとひどく目が疲れる。群像の中の一遍上人はきりっと眉毛をつりあげているけれど、どの絵もまるでウォーリーを捜せ、の状態。円伊という絵師が、荘厳な寺院からみちばたのルンペンや病人、物売りまで、上人とともに眺めた鎌倉時代のありとあらゆる風俗をえがきとめようとした。


 彫刻とか、ガラス絵、漆箔など、印刷では再現出来ない素材もある。厳密にいえば、絵もおなじ。でかい絵なんかでは、縮小すれば細部がつぶれてしまう。洋画なんかで肌色のうえに青やピンクで陰影をつけているのも、印刷ではわかりづらいが実物をみれば一目瞭然、だったりする。

 旧館棟1951と渡り廊下でつながっている新館棟1966は、すでに耐震上の問題で閉鎖され、事務棟になっている。これも坂倉準三設計らしいが、こちらは老朽化のため取り壊されるはこびだという。池面のほうはガラス貼りのカーテン‐ウォールで一見おしゃれにみえるが、裏側はこのとおり。鋼材の錆がういたまま、ポンコツ然としたすがたをさらす。せっかくのジャコメッティ(右下の像)もなんだか貧相にみえる。


 二階ベランダぶぶんには喫茶室がある。店の名はちょくちょくかわるみたいだが、プリンとかケーキ‐セットが名物のようだ。ここには「女の一生」というレトロな壁画があって(写真ひだりの赤い壁部分)、中三階の屋根裏部屋からもながめられる。この絵は一時塗り込められていたのを復元したのだという。

 閉鎖後、こうした壁画や、すえつけられた彫刻(下写真はイサム‐ノグチ「こけし」)、ところどころにたっているきれいなお姉さんなどはどうなってしまうのだろう。アスベストの壁なんかは改修するのだろうか。そもそも、なにになるのだろう。いろんな謎がのこる。


 それにしても、見る、というのはこんなにも疲れるものなのだろうか。めまいがしてきた。もののついでに鶴岡文庫のむかいにある鎌倉別館もみてきた。そちらは来年度から本館になるのだろうけれど、郊外の図書館のようにこぢんまりとして特徴にとぼしく、展示スペースがとにかくせまい。

 別館の展示品は現代美術と工芸だが、大味で、みるべきものはなかった。現代美術は淘汰がすすんでいない、ということもあるのだろう。凡作はとにかく巨大で、クリスマス‐カードていどの情報量を畳大にひきのばしたようなスカスカのものばかり。これは巨大ビルのロビーむけの大物ばかりを売りたがる、現代の画商のせきにんなんだろうけれど・・・せまいうえに品数も少ないんじゃ、おもしろいはずもない。今後、おもしろくなるんだろうか。


 レストラン古我邸はすでにディナー‐タイムがはじまっていた。なんだか「思い出のマーニー」の、湿っ地屋敷に灯がともったように、人の影がうごいている。近衛公爵がすんだころも、こんなかんじだったのだろうか。

 日々変わってゆく鎌倉。そうかんじるのは、歳をとったせいかもしれないんだけど。


No.171
No.173