トップ鎌倉好き集まれ!もちださんトップ 第73号 


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もちださんの鎌倉リポート No.73(2014年11月4日)



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雅楽について・2



長保楽(※)。蛮絵装束
 舞楽管絃にはかつて「林邑楽(ヴェトナム)」とか「波斯楽(ペルシャ)」「新楽」などおおくの分類があったのだが、平安中期には左右の衛府が担当したこともあり、「唐楽」「高麗楽」の一対に整理された。高麗(こま)とは当時のことばで、シベリア沿海州地方にあった友好国・渤海をさしている。ただすべて日本化され、便宜的につめこまれているだけで、じっさいの国籍とはほとんど関係がない。

 右方と左方では楽器の編成がややことなり、舞楽や右方では絃楽が省略され、とくに右方(=東方)では東遊笛(中管)という、東国ふうの小型神楽笛を「高麗笛」となづけてもちいるなどする。また左方では六拍子のおなじ曲を、右方では五拍子(夜多羅拍子)で演奏するなど、曲調にも一律の変化をつけている。装束も左の赤にたいして青、金にたいして銀。



笙は火鉢で温める
 琵琶・筝などは御神楽の和琴同様、リズム楽器としてもちいられるだけ。笙がかなでる複雑な合音(合竹)も、基本は三度(ドミソのミ)を避けたサスペンドとよばれるもので、やはり和琴と同じく、和声をあらわすためのものではない。ながく御神楽とともに伝承されてきたためか、外来の地域的特長とか、曲ごとのヴァリエーションとかは、意外にすくないのだ。

 舞に用いる華やかな衣装も、基本は日本の武官装束。盤絵(蛮絵)というはでな丸紋をつけたり、裲襠という乗馬用のベストを着たり、はては面や和紙でつくった冠をつけるなど、なんとかエキゾチックにみえるよう、工夫されているにすぎない。四方にほぼおなじ振り付けを舞う様式も、神楽とおなじだ。



中世のミッキーマウス(林歌)。ねずみの刺繍
 面や冠などには竜や猿、蝶、鶴、ネズミなど童話風の主題をもちいたものもある。ただ、もとになった外来の物語は、音楽的特徴とともにはやくに忘れられてしまった。たとえば清少納言お気に入りの曲「抜頭(バトゥ)」は、ヴェトナムからきたともいい(林邑八楽)、もともとはインド神話にゆらいするらしいが、たしかなことは分かっていない。

 いつしかそれは「唐の后が嫉妬に狂ってもだえている」、いや「親の仇の大蛇を討って歓喜の雄たけびをあげる、中国の蛮人」とかいうような、さまざまな空想をうんだ。それらは大概でたらめであるにしても、「しっとに苦しむ六条の御息所」(能「葵上」)など、後代にさまざまな連想のヴァリエーションをのこした。各地の寺社につたわる竜神伝説なんかも、竜の舞「落蹲-納曽利」あたりからひろがったのだろう。



抜頭。裲襠装束の走り舞
 音楽のふるさとがオリエントにあることは、ほぼまちがいないようだ。ただ、古典様式とされるデデ‐エフェンディ(1778-1845)でさえ、ベートーヴェンのころの人。問題は中世までの、ネウマとよぶ不完全な楽譜のためで、うしなわれた音階や音長(リズム)、伴奏や装飾音などの解釈のしかたによってまったく別の音楽になってしまう。

 雅楽にも厳密にはまったく同じことがいえるわけで、近代のルールを無視した摩訶不思議な音色は、古代音楽の諸要素にそのまま合致するとも言えるし、一千年をこえる伝言ゲームの果ての、複雑な崩壊過程で到達したともいえる。世界最古の伝承音楽は、こうした事情をふまえたうえでなお、高く評価されてきた。なぜなら旋法(多調)、倍音、音塊、ポリリズムなどさまざまな特徴は、考古学的であるとともに、20世紀音楽の学問的関心事と一致する点が多かったからだ



大好物のヘビを食べる中国人(還城楽)
 海外で評価の高い国歌「君が代」も、じつは雅楽の旋法で書かれている。建築家で美学者のブルーノ・タウトは、最先端の前衛音楽をまなぶことで日本音楽の独自性がますます強固になる、とさえ書いた。メシアン、シュトックハウゼン、ブリテン、武満など各国の錚々たる現代作曲家が雅楽をテーマにした曲を作っている。

 「・・・その音楽はある種の残酷さを帯びており、止んではまた吹き、骨身まで突き刺してくる北風や氷を溶かす腐食性の太陽のように、魂を痛めつける」。(ポール・クローデル「雅楽」内藤高・訳)



雌雄の龍のパドドゥ(納曽利)
 雅楽のようなものは、いまも中国やヴェトナム、韓国などにあるが、共通する曲目はなく、細部についてもあまりにていない。古代と銘打ってはいても、もともと明清楽の継承にすぎないものであるうえ、西洋音階の模倣、観光ショー向けの安易な「改良」なども指摘される。韓国の「春鶯囀」は近代のものだし、日本でも「天平の調べ」などとうたう、新作のムード雅楽ばかりがマスコミをよろこばせる。

 明治以降、雅楽は秘伝ではなくなり、楽譜なども公開されてきた。宮内庁楽部のOBらが指導の場をひろげ、県内にも数多くの雅楽同好会ができ、もちろん鎌倉にもある。ほとんどのところで会員募集もおこなっている。未経験者歓迎、とはいえ長く続けるのは、むずかしいようだ。



春庭花
 「舞楽・管絃」は八幡宮でも五月の菖蒲祭などで上演されるが、観光地ではかえって見学しにくいのが玉に瑕。無料の奉納演奏やコンサートについては各団体のHPをご覧いただくとして、まずはご近所に穴場をみつけ、あらかじめ雅楽というものに親しんでおくのが賢明かとおもう。

 ※ 参考写真は2・7が神奈川雅楽部(@観護寺)、他は横浜雅楽会(3-6 @師岡熊野神社、1 @鶴見神社)。


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