トップ鎌倉好き集まれ!もちださんトップ 第93号 


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もちださんの鎌倉リポート No.93(2014年12月2日)



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田祭り


 中世の田歌をつたえる田祭りが、横浜市の鶴見駅前にのこっている。工業地帯のビルの谷間に田んぼ、というのも不思議だが、じつは江戸時代の国学者・黒川春村(1799-1867)らがのこした記録を元に、明治に廃絶させられた祭りを再興したものなのだ。

 種まきから収穫まで、一年の農耕を歌と所作で模倣して豊作を予祝、シメはお鶴亀蔵のエロチックな舞で天地創造までを再現する。いまでは四月の下旬におこなうが、エリアーデら神話学者が説くように、もともとは世界共通におこなわれた、新年の祭りの一種だ。



もち製の作り物
 お菓子券が蒔かれるため、こどもたちにも絶大な人気。小学生にはやされて区長も来賓も、とくい顔だ。たいくつな歴史遺産も、こんなふうに受け継がれている。

 前座の雅楽、本殿での巫女舞・奉幣などが型どおり済んで、いよいよ田祭りのはじまり。ひとのいい世話人のおじさんが竹筒からふるまってくれるお神酒は、田歌にも歌われる。独自ブレンドだとか、ちょっと炭酸っぽい、くせのない味。かんじんの田歌はというと、いかんせん素人芸なので、こまかな章句まで聞き取ることはできない。



田打ち・代掻き
○ 大明神の、御春田に、徳万石、福万石、ざうぶざうぶと蒔かうよ、とや。この程にこの程に、福の種をまかうよ。

 それぞれの田に蒔こうという「ひげ白餅」とか「小法師」とかいうのは稲の品種であるらしい。その名はすでに平安時代の木簡などにも書かれていて、律令官衙はすでにこれを穂の状態(穎稲)で管理、計画的に貸し付けるなど農協のようなこともしていたようだ。中世には、味ばかりでなく根の張り、倒れやすさなど、あらかじめ旱魃、風水害にそなえた多種多様な品種を用意するひつようがあった、というわけ。

○ 引き寄すべきもの候、福徳、幸い・・・。去ん出すべきもの候、病といふこと、死といふこと、飢渇、疫癘、苦風、苦水・・・。



早乙女・鳥追い
 おもしろいのはパントマイムにつかう作り物(道具類)で、鍬は餅でできている。代掻きの牛は墨描きの素朴な面で、胴体は小児がはいはいして演じる。女児がおこなう早乙女の小菅笠は扇をあわせたもの。

 扇などは与え、餅なんかはほんらいお焚き上げ(左義長)で食うための用意だった。いまでは舞台に積み上げるのみで、直会(なおらい)の共食も所作だけだが、火は年を改めるための大切な装置。お盆の迎え火とか、ワルプルギスの火とか、こうした再生の祭りにはつきものだ。「椀飯振る舞い」なんて言葉ものこるように、正月ともに飲み食いすることは結束のための神事だった。



神馬
 真打はさっきの世話人のおじさん。豊作をあらわす千駄馬にはいってお待ちかね、盛大に米の花をさかせる。あぶなくないよう、ちりがみに包んであるのは1円玉などだが、なかにはフィルムケースに入れた「引換券」もまざっている。舞台にくいついていたこどもたちが、ここを先途と争ってひろう。

 さいごの性的所作は、いろいろと教育的配慮がなされているが、かつては「心はそつくらめく、開はひつくらめく」という、あられもないものだった。維新の開港時、ここの田祭がいちじ中断したのは、外国人に「淫祀」をみせまい、という老婆心からだった、という。ただ、ちんこパンで女の人のおしりを叩くような伝統行事は西洋の文明国にもいくつかある。これは人類さいしょの男女「アダムとイヴ」の模倣なのだ。



へのへのもへじ
 鶴見神社は牛頭天王と杉山明神をまつる。杉山明神は鶴見川中流域にある固有の神で、その正体はイソタケルとも、大物主、倭建、忌部がまつる高木の神ともいう。イソタケルはスサノオ(牛頭天王)の子で、韓の国を「草木も枯れる枯国」とあざわらい、紀伊国に種をまいた、植林・造船の神様。大物主は韓神ともいい、やはり作物を「枯らし」たり生やしたりもする出雲系の祟り神。

 この明神社は50をこえる分社をもつが、なぜか本社が不明になっている。延喜式には都筑郡とあるので、(郡域は近世に再編されたとしても)橘樹郡にかなり深くいちする鶴見神社の本社説は、いまいち苦しい。しいていえば、下社・里宮か。



直会(なおらい)
 中世にはやった田楽は田歌・田遊から派生したもので、やがて田植えに集まってくる人々への奉仕として、ビート感あふれる音楽や曲芸をふくむショーとなった。御堂関白道長なんかも、わざわざ桟敷をつくって見学しており、白河院のころには芸人集団が市中にも進出、貴賎入り乱れて踊り狂う一大ブームを巻き起こした。

 鶴見にはちょっとした沖縄街があるが、琉球の盆のエイサーも、念仏踊り経由でつたわったもの。田楽そのものは廃れたが、むしろひろく発展解消したとみてよく、全国各地の盆踊りをはじめとする、ありとあらゆる祭り囃子のルーツといって過言ではない。


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