鎌倉好き集まれ!ゆきしぐれさんの鎌倉リポート・第1号(2005年10月19日)

鶯谷・稲荷山 雪ノ下 鎌倉

紅が谷の物語り -鬼姫さんーその前半部分

 京浜急行バスの小坪経由で逗子方面から来ると、材木座海岸の次にバス停の九品寺前があります。そのバス停の向かい側の小道を山側に向かって歩を進めると、その辺りが紅が谷(べにがやつ と読みます)。
 現在では、紅が谷一帯は住宅地になっており、瀟洒な洋風の家などが立ち並んでいますが、ちょっと前、30~40年前までは、お庭の中に山があるような、広い敷地のお屋敷がいくつかあり、材木座海岸の方向に開けた地形だったそうです。 今の皇后様の別荘などもお山の麓にありました。
 わたしのお母さんが小さいころ、「子ども会」という町内の子供だけの集まりがあって、やはり町内の公民館で、劇や、おどり、お話会などがよく行われたと言うことです。
 このお話は、そのころ、バス停の九品寺前の向かいのほうにあった材木座公民館と言うところで、一人のおじいさんがお話してくれたもので、紅が谷を囲んでいるお山に住んでいた鬼さんのお話です。
 わたしも、このお話をお母さんから聞かされたのが、ずっと前のほんの小さな子供のときで、鬼さんの名前を忘れてしまいましたので、ここに出てくる鬼さんの子供の名前を仮に花子さんとしておきます。

 鬼姫さん
 むかしむかし、紅が谷とそれを囲んでいるお山全体を支配している鬼さんの親子がおりました。 鬼さんの子供は、女の子で角も牙もまだ生えておらず、人間の子供と見分けがつきませんでした。鬼さんの子供の名前は、花子。 花子は、紅が谷にある村の人間の子供たちと、毎日一緒に仲良く遊んでおりました。 人間の子供たちは、花子が鬼さんであることを知っていましたが、特に気にすることなく仲良しにしておりました。
 花子は、漁師の子供の太郎と特に仲良しでした。 太郎は、子供たちの中では大将格で、いつも数人の家来の子供を引き連れて、海で魚や貝類を捕って、おやつ代わりにしておりました。
 花子は、どうしても水に慣れずにいたため、太郎たちが海から上がってくるのを焚き火を焚いて、待っていました。
 太郎は、銛で魚を捕るのが得意で、海から上がると、その日の収穫を分け隔てなく平等に、みんなに分けました。 その中には、水に入れない花子も含まれていました。 水の中で冷えた体を温めるには、花子の焚くたきびは、子供たちにとって必要でした。
 
 あるとき、いつものように太郎たちが海でおやつを捕っている間、花子は焚き火をしながら待っておりました。 その日は、海が少々荒れ気味で、波が高く岩肌をたたいていました。それに、太郎たちの帰りがいつもより大分遅い感じがしました。
 花子は少し心配になって、太郎たちが、海に入るときに飛び込み台にしている岩場のところまで行って、海の中をのぞくようにしていました。 太郎たちが上がってくる気配がしないので、知らず知らず岩場の端まで来てしまいました。 そのとき、荒れ模様であった波が、花子の足をさらいました。 花子は、あっという間に足を岩の端から滑らせて、海の中へと沈んでいきます。 (前半部分の終わり)

 後半部分に続きます。