鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第33号(2004年12月9日)

The Sound of the Mountain

石蕗

長谷の鎮守 甘縄神明宮。
歴史書『吾妻鏡』にも記されている古社で、
和銅3(710)年創建、鎌倉で最古の神社である。

社殿背後のうっそうとした裏山は、
「御輿ヶ嶽」と呼ばれ、古くは歌にも詠まれている。

 都には はや吹きぬらし 鎌倉の 御輿ヶ嶽 秋の初風

鳥居近く、石碑の足元に咲く石蕗の花。
眩しいほどの揚々たる輝きに、彼の夏の向日葵を想う。
川端康成が、長谷に移り住んだのは、昭和21年のこと。
小説『山の音』は、社を覆うかの雑木の情景と、
ざわめく濃緑の自然をモチーフにしたとも。

刻々と近づく死を予感しながら、
儚き片思いの相手を彷彿させる可憐な嫁に対し、
ほのかな恋心を抱く初老の男性。
戦後間もない頃、
或る中流家庭の複雑な人間模様が静かに描かれる。

甘縄神明宮

社殿

川端邸は、背後に山のせまる静寂の中にある。
静かに耳をすませば、遠く聞こえてくるやもしれぬ。
打ち寄せる潮騒ほか、山の音までも。

小説の中で、その「音」はこう記される。
「地鳴りとでもいう深い底力」
「魔が通りかかつて、山を鳴らして行つたかのやうであつた」
境内には、社殿を囲むように山茶花の木。
清らかな花が、枝葉いっぱいに咲きほこる。

冬枯れの山奥でザワワと音がし、木々の梢が風に揺れる度、
ふわりと舞い散る白い可憐な花びら。
手に触れた途端、忽ち溶けて消え入りそうな雪の華の如し。

山茶花

小菊

石段を下りた右手に、ひっそりと建つ小さな公民館。
前庭のフェンス越しに、小菊が仲良く並んで日向ぼっこ。

久しぶりのぽかぽか陽気に嬉しそう。
一同、元気に勢揃い、
降り注ぐやわらかな日差しに、思い思いの笑顔を向けて。
迫り来る寒宵の北風に負けないエネルギーを今、蓄えんとす。