鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第18号(2004年8月20日)

From the vestigial memory

金魚鉢

江ノ電和田塚駅ホームから線路に沿って西へ数歩。
小さな木の門をくぐると、
どこか懐かしい雰囲気のお茶屋さんがある。
外観はこじんまりとした佇まいの庵であるが、
季節感溢れる素朴なお庭が実に趣深い。
訪れる度、我が家にもこんな庭があったらなぁと夢見てしまう。

ガラガラと引き戸を開け中へ。
暖簾の奥から「いらっしゃ~い」と声がする。
「ただいまーっ」なんてつい応えたくなっちゃう。
靴を脱ぎ、すぐ正面、囲炉裏の間へ。
席が空くまで待つ間も、なぜかウキウキ嬉しい。

窓の外、和田塚駅を発車したばかりの江ノ電が
ガタゴトゆっくり通り過ぎてゆく。
この世で一番好きなもの。無心庵の「豆かん」。
ウン十年、いろいろなものを食してきたが、
これほどまでにシンプル且つ絶妙な味わいの一品は、
おそらく無い。
やや固めのプレーンな寒天に香ばしい豆がごろごろと。
艶やかな黒蜜をとろ~りかけて召し上がれ。
夏バテもいっきに吹っ飛んでしまいそうな甘味と歯ごたえ。

ちょうどお隣、
朝顔の浴衣姿の少女たちが、クリームあんみつにご対面。
一匙ずつスプーンですくって口へと運ぶ仕草の愛らしいこと。
甘いものには、あどけない笑顔が一番!

豆かん

芙蓉

花言葉は「繊細な美」。

夕方にはもうしぼんでしまう一日花。
指先に触れた途端、
溶けてしまいそうな薄い花びらに、
陽の光がかすかに透けて、快い涼感を誘う。

天女の羽衣の如く薄命の愁い多き装いは、
彼岸過ぎ 晩夏の印象。
細い路地のあちこちに送り火の跡。
盂蘭盆 季節の形見。
通りには、仏花を抱えた人々がちらほらと。

縁側で、胡瓜・茄子の牛馬を作るおじいちゃん。
台所では、せっせとおはぎを作るおばあちゃん。
ほおずきをそっと摘まんで上手に吹けるかな?と子供達。
祖先を敬う慣習は、じっくりゆっくり受け継がれてゆく。
これまでも、そしてこれからも。

かすかにお線香の残香漂う 寺庭の夕暮れ。

女郎花

夕飯前のひととき、ただ何となく八幡宮まで歩く。
空にぽっかりと浮かんだ白い雲。
人の気配もまばらの境内。
竹箒で参道を掃く巫女さんの袴姿のみ鮮やかに映る。

源平池のほとり、水彩で蓮海原を描く親子の影。
夏休みの宿題かな?
軽く会釈をし、持参のパンの耳を取り出す。

   東京の夕暮れ 鎌倉橋に立った。
   橋の向こうに 雪洞の燈火が揺れる。

先日 祭で見た伊集院静さんの雪洞をふと思い出す。

あれれ? 何やら騒がしいぞ?
あれよあれよという間に、
お腹をすかせたカルガモたちが次々と集まってきた。
やってるやってる、ここでも弱肉強食の世界。

処暑 今年もたくさんの思い出をありがとう。