鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第21号(2004年9月11日)

Zigeunerweisen

佐助随道

京都より古き懐かしい友人が訪れたのをきっかけに、
初秋の鎌倉を肩を並べ歩く。
木漏れ日の坂道を登ってゆくと、
いかにも古めかしいトンネルがぽっかり口を開けている。
ひんやり冷たい空気の奥へと続く一筋のナトリウム灯。
その暗闇の先に、白く眩い光の集合体。
入口でふと立ち止り、
「あれっ?この景色、確かどこかで・・・見たことが・・・」
友人が物憂いげに首を傾げる。
「ポチャン」
「大当たり・・・」
頭上から、昨夜降った雨の滴が落ちてきた。
古ぼけた蓄音機から静かに流れてくるJAZZのmelody。
薄暗がりの店内の棚にはantiqueな家具や骨董がズラリ。
壁際に怪しげな微笑を浮かべる夢二のportrait。
磨硝子の窓から射しこむ斜陽が、床板に奇妙な影を作り、
飲みかけのIce Teaの氷がグラスの中で音を立てる。
ゆらゆらと煙草を燻らせ、暫く沈黙のとき。

Milk hall

石塀に沿う黒い長椅子にひょろりと飛び乗った一匹の猫。
ここは自分だけのとっておきの場所・・・と顔に書いてある。
何はともあれ、こちらのお店と猫との繋がりは深い。
マスターはこの界隈の『猫ワールド』に通じている。
お店発行の《Milk Hall Times》にも
“鎌倉の猫事情”というcolumnを掲載しているほど。
香り懐かし藁半紙への印刷は、創刊18年の長い歴史を物語る。
表通りの雑踏を僅かに逃れ、狭い路地に広がる不思議な異空間。
ゴーォーと吹きすさぶ風の音を聞きながら、件の峠に辿り着く。
「ここ、ここ。今、やっと思い出した」

伸びやかにうねりをあげる地層のライン。
毛細管のように縦横無尽に地を走る木の根。
頭上を覆う緑の梢が、宙に渦を巻いてぐるぐると回転し・・・。
とその瞬間、強い突風が足元の落ち葉を巻き上げ、
思わず咄嗟に瞼を閉じる。

この切り通しを越えたなら、
これまでの自分とは全く異なる《誰か》になれたらいいのに。

切り通し

峠道

鈴木清順監督の《ツゴイネルワイゼン》という映画がある。
1981年にアカデミー賞を受賞した作品である。
一個人としてこの映画を形容するなら
「Cocoa-Banana-milk」
一見、見事にマッチするようで、何処かミスマッチな・・・??
友人曰く、今日出会った場所は全てこのCinemaのシーン。

帰路、
民家の垣根を越え聞こえてくるサラサーテの不協和音。
路傍、シダの繁みに紛れて咲く白い藪茗荷。
深まりゆく秋にヴァイオリンの旋律を重ね、山を下りた。