鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第22号(2004年9月18日)

In a reminiscent mood

路地裏

うわぁ~たいへん!寝坊した~。遅刻、遅刻!
土曜日の朝はいつもこんな調子で始まる。
大町にある陶芸教室へと急ぐ道すがら、
ちょっと気になる住宅地の路地裏。
ある日偶然に見つけて以来、
その独特の佇まいに惹かれ、つい選んでしまう遠回りルート。
辺りはいつもきれいにお掃除がなされ、
お供えの花も赤,白,黄色と色鮮やか。
こうして日々大事に守り続ける付近住民の深い心に癒され、
気分爽快、いよいよ創作意欲が湧いてくる。
お稽古終了後、今日はあんまりお天気がいいので、
同じ教室仲間のFさんと光明寺までご一緒する。
鎌倉といっても、あまり馴染みのないエリアだけに、
このような誘いがとても嬉しい。

壮大な二層式山門をくぐると、
海岸に近いせいか境内には微かに潮の香りが漂う。
その本堂右手に《五祖庭園》と呼ばれる石庭がある。
長椅子に座り、静と動の調和を眺めていたら
次なる陶芸作品へのアイデアが湧いてきた。
この紋様、もしかしたら次の絵柄のモチーフに使えるかも・・・。
ゆるやかな曲線を活かした菓子盆なんてどうかな。
夢想が果てしなく広がり・・・とその瞬間、
バサッと裏の林から一羽の鳶が舞い上がった。

石庭

1046年文化育成を目的に、光明寺の本堂と庫裡を教室として、
自由大学『鎌倉アカデミア』が開校した。
鎌倉在住の哲学者、作家、演出家といった個性溢れる教師陣は、
「これからの教育は、自分の頭で考える人間づくりにある」
をコンセプトに、ユニークで自由な実践を大胆に推進。
1950年閉校までのわずか4年間、
いずみたく、山口瞳、鈴木清順といった数多くの逸材を輩出した。
今となっては可惜物、実に斬新で面白い試みであった。
その教育論の先駆性を、改めて見直すべき時が今ようやく。

紋様

材木座海岸

夕暮れの海辺。
「あれが、うちのひと」。
人影まばらの砂浜にて、指差す先に目をやると、
波間に小さな黒い人影が動く。
夫婦揃って「サーフィン大好き」というFさん。
埼玉県川越市からこの材木座に移り住んでニ年になる。
今は、新米主婦として家事の傍ら、
ヨットに陶芸、英会話といった様々なジャンルに挑戦。
「本当に、ここに引っ越してきて良かったわ~」
鎌倉ライフを充分に満喫している様子。
「これからが、海は一番いい季節なのよ」と嬉しそうに呟き、
波打ち際へと走っていった。
銭湯「滝の湯」の前にて、面白い暖簾を見かけ歩を緩める。
どこか漱石《坊ちゃん》を彷彿させる、
古都の風情たっぷりの粋なデザイン。
番台窓越しに、いつもの元気なおかみさんの声が聞こえてきた。
「ちゃんと足をきれいに洗ってきなさいね、他のお客さんもいるからね」
「は~い!」
扉が開くと中から、由比ヶ浜からの帰りらしき女学生達が
わいわいと暖簾を別けて出てきた。
彼女達の向かう先は、道路を挟んで数メートル離れた水場。
水道の蛇口脇でサンダルを脱ぎ、砂だらけの素足を洗う。
そして再び、銭湯の入り口へ。
「ちゃんと洗ってきましたぁ~」
「ありがとう」
こうしてきちんと常識を諭す人がいて、
年配者の声をきちんと素直に受けとめる若者がいて…。
『鎌倉ならでは』の『鎌倉らしさ』がここにある。

滝の湯