鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第23号(2004年9月24日)

Behind the masks

去る9月18日土曜日の午後。
以前よりずっと気になっていた御霊神社の例祭を見に行く。
江ノ電の小さな踏切を渡りながら、ふとトンネルの方へ目をやる。
ひっそりと肩を寄せ合い彼岸花が咲く線路脇。
もうすぐ電車がやってくるよと囁く。

暫くして、
天高く、海からの潮風に乗って、
チャカチャカと賑やかなお囃子の音が聞こえてきた。
そ~れ、急がなきゃ。

坂ノ下

例祭

俗称、権五郎神社。
もとは平安時代後期、
地元の漁師たちが祖先の霊を祀るために建立した古社である。

この日のメインは、田楽面や舞楽面をつけた十人衆が、
坂ノ下界隈を練り歩く面掛行列。
その行列に先駆けて奉納されるのが「湯立神楽」である。
赤い天狗の面をつけた宮司が槍を振りかざし舞う。
その後方、黒い天狗の面をつけたもう一人の宮司が、
いかにも悪役振りたっぷりに舞う。
隅っこのほうででオドオドと逃げ回る黒い天狗。
天を仰ぎ、勇敢にも邪悪に立ち向かう赤い天狗。
狂言にも似た両者の舞は、いつしか観客の笑いを誘う。

湯立神楽

本来の湯立神楽とは、
「産土神,火の神,水の神を招神し、神々の恵みに感謝、
そして除災招福を祈る」ものであったらしい。
が、実際の湯立といえば、
神前にて大釜に沸騰した湯を囲んで行なうもので、
その湯をふりかけて身を清め(ひえぇ~っ)、
湯花や泡の立ち具合で神意を占うといった、
まさにオドロオドロしい命がけの神事。
今回、あまりの人手のため、
このおっかなびっくりシーンに遭遇できなかった。
残念…のち…安堵(ほっ)。

面掛行列

湯立神楽に続いて、
神輿渡御の行列と共に「爺」「鬼」「鼻長」「阿亀」など
十人の面掛衆が行列する。
行列は、仏教布教を目的に上演された伎楽に由来する。
なるほど、各面は横幅が広く、男面の鼻が高いといった特徴は、
かつて歴史の教科書で見たような…?
また、行列の中心となる妊婦姿の「阿亀」は、
豊作,豊魚を「妊む」「産む」のシンボルでもあった。

観客の渦の中、お父さんの肩車に乗った幼い少年が、
行列の一人「異形」の面に驚いたのか、
いきなりわーんと泣き出した。
わかるなぁ、その気持ち。
あの面面に凝視されると、大人でもドキリとするんだよね。

うわさのひと…?

話の真偽は分からないが、
この怪しげな行事の起源に関し、こんな伝説がある。

源頼朝が隠れ里~佐助ガ谷~を訪れたときのこと。
ある木彫師の娘に魅せられ、
お忍びで何度となくこの娘のもとに通う。
その後、その娘を妊娠させたことを
正妻である政子に知られるのを恐れた頼朝は、
この父娘に藍摺の布ニ反を与え、
この地域の一族に一年に一度だけの無礼講を許した。
この行列は、その様子を再現したものという。
十人集のうち九番目の「阿亀」の面が、
頼朝が孕ませたといわれる娘で、
今でも大きなお腹で参加することが習わしとなっている。

口封じに藍摺ニ反?、無礼講と行列??
むむむ…何とも不可思議な日本むかしばなし。