鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第27号(2004年10月22日)

The artisan spirit

有風亭

二十年間、変わらぬスタイルで鎌倉の街を走り続ける人力車。
鎌倉における鎌倉らしい景観の一つ。
秋の好日、若宮大路にて偶然見かけた花嫁。
有風亭 青木登さんの人力車に乗り、
八幡宮から会館前にご到着。
その出立ちは、白無垢ではなく古式ゆかしい振袖の装い。
朱を基調とした絵柄の色使いも、どこか平安朝の趣。
きっと、曾祖母から祖母、そして母へと家系に代々伝わり、
この度めでたく娘さんへと継承されたかの如し。

「いいなぁ~、私、ずっと憧れてたのよね、
こんな風に結婚式を挙げること…」
「そう・・・だったんだ……ゴ・ゴメン…」
お隣で誰かさんが、肩を落してうつむいたまま…。
「じょっ、冗談だってば!」

鎌倉彫 安斎

古都鎌倉に伝統工芸品として伝わる鎌倉彫は、
源頼朝が幕府を鎌倉に定め、八幡宮を造営して以来、
全国各地の名工が寺院の仏像・仏具を彫刻すべく、
この地に集まり、その技を競い合ったことが起源とされる。

時代を経て、
仏具ほか、茶道具や調度品にも使用されるようになり、
この地に伝わる技術,技法、天然の原料,材料をはじめ
彫りの素朴さと漆の優雅さとを併せ持つ鎌倉彫は、
これからも変わることなく鎌倉人の心を魅了し続ける。

VANILLE

美しく磨きあげられた硝子のショーケースの奥に、
恍惚としてその“作業台”はある。
この場所で、ご主人がお菓子という芸術作品を創り出し、
店先、奥様による最高のおもてなしの心を添えて送り出す。
この単調ながらも厳粛なる《裏と表》の営みは容易くない。

ところで、この秋とびっきりのオススメは、
季節限定販売の《パンプキンロールケーキ》。
うっすら渦巻状のパンプキンクリームは勿論、
スポンジにまでパンプキンの甘~い香り。
店の外、枯葉舞う若宮大路の往来を眺めながら、
白い包装紙と銀色リボンでdecorateされるのを待つ。

CARO

カウンター越し、厨房に濛々と立ちのぼる美味しさの熱気。
とろ~りビーフシチューの湯気の合い間から、
ひょっこり現れたシェフの穏やかな笑顔。
真っ白な調理帽と首筋の赤いバンダナがよく似合う。

店内をほのかに照らすランプの灯り。
どっしりと重厚なテーブルに白レースのテーブルクロス、
壁には、あどけない天使が宙にふわりと浮遊する超常的絵画。
圧倒的に地元近所のお客さんが多いのも魅力の一つ。
実に皆さん、よく食べる、飲む、笑う。
潮騒近い長谷より溢れる一本気な真心。
老舗の誇りは、心のこもった「手作りの美味しさ」にある。

with…

由比ヶ浜への道すがら、ふとこのお店を見つけた瞬間、
すぅーっと引き寄せられるように店の扉を開けた秋の夕暮れ。
うす暗闇の店内、正面奥の机に向かい、首を擡げて
黙々と皮を裁断するオーナーの横顔が印象的だった。

あれから十数年が経ち、
鎌倉の小さなお店で生まれたこげ茶色のショルダーバッグは、
はるか海山を越え、北米大陸を横断、更にはEU諸国を廻り、
次期にはオセアニアへ…と夢続く。
店名「with・・・」が顕すように、
いつの時も苦楽を共にし、いたる所で思い出を道連れに・・・。

「たとえ傷がついたとしても、持ち主の御心次第で、
 それは勲章にも、味わいにもなります」
オーナーのさりげなくも含蓄ある一言が、心に響く。