鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第29号(2004年11月6日)

Through thick and thin

寿福寺 参道

亀谷山寿福金剛禅寺。
正治2年(1200)、
頼朝夫人北条政子が栄西禅師を開山として建てた
鎌倉五山第三位の寺である。

外門から山門へと続く敷石道。
静寂の中に一筋の緊張感さえ漂う。
うっそうと深い緑に抱かれた「隠れ里」の雰囲気。

柏槙

禅宗寺院に多く見られ、市指定天然記念物でもある柏槙。
仏殿前いっぱいに緑葉を茂らせ、
どっしりと整然としたその樹形は、貫禄充分。

この位置から寺庭を眺める時、
「完成された箱庭の傑作」という気がしてくる。
武家興亡の800余年の歴史を小さな木箱に集積しつつ、
色彩豊かに草木が息づく 癒しの構図。
萩の残花がまだ見えていたから、
あれは秋も深まる10月初旬と記憶する。
あの日この場所で、その《ひと》に出会った。
「お一人ですか?」ふいの背後の声に振り向くと、
黒いknit capを頭に被り、杖を手にした男性が立っていた。
「お好きですか?この庭・・・」
まるで独り言を囁くようにその男性は静かに話し始めた。

源氏山を含むこの一帯は、源家父祖伝来の地であること。
頼朝が鎌倉入りした1180年、ここに幕府を構えようとしたこと。
しかし、既に亡き父義朝の御堂があり、
館の用地には狭すぎるので断念したこと。

首を傾げ、頭をポリポリ・・・苦手だった歴史学を総ざらい。
秋風吹く青天井の教室は、ちょっぴり寺子屋風。

山門

「どうです、好いでしょう」
本堂左手の脇道へ案内され、細い小径を行くと、
古いやぐら群の残る小さな切り通しに出た。
ポッカリと口を開けた岸壁の向こうには、
穏やかな陽光のひだまり。

「ここを堺に、
 こっちは現世(暗)、あっちは来世(明)って雰囲気でしょ」
「不思議とね。ここをくぐると気持ちがすぅーっと軽くなって…」

男性はちょっぴり誇らしげにニコリと笑うと、
胸に手をあて、大きく深呼吸して見せた。

The time tunnel

The show window

あれから10年。別れ際、
「たいてい若宮大路をふらふらしていますから」
と仰っていたが、これまで一度も見かけたことはない。
無論、お名前を知る由もない。

また今日も、
木立の合間から、つい何となしに覗いてしまう参道の奥。

いつまで続くかな…、この癖。
兎にも角にも、今もお元気で・・・と願わずにいられない。