鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第42号(2005年3月23日)
Spring begins
山門へ向かう道すがら、
つい見過ごしてしまいそうになる。
緑葉の陰に、淡紅色の鈴蘭を重ねたように咲く。
古来から、山野に多く自生していたらしい。
わが背子にわが恋ふらくは奥山の
馬酔木の花の今盛りなり
ほとばしる愛
ひたむきな愛
万葉びとは、
さまざまな恋心をこの花に託して。
中国名は「黄瑞香」。
やわらかな黄にふくよかな香を漂わせ、こんもりと咲く。
春分のこの日、ちょうど満開になったところ。
寺庭の一画、にぎやかな歓声が飛び交う。
目を凝らして見ていると、
『ニョロニョロ』のような花弁であることに気付く。
どことなく親近感、且つ、途轍も無い存在感。
別名、「春小金花(はるこがねばな)」。
江戸中期に、朝鮮から渡来したとされる。
派手さがなく、目立たない花木であるが故、
こうして仰ぎ見ていても、気に留める人は無し。
爪先立ちで、そっと顔を近づけていく。
…とその時、背後で声が。
「これ、何て花でしょう?」
「それにしても、ちっちゃな花ねぇ」
さんしゅゆの黄や町古く人親し(大野林火)
夕刻16時過ぎ、やっぱりここに来てしまう。
赤い野点傘を、丁寧にたたむ住職さん。
暫くして、『閉門しました』の立て看板を運んでくる。
誰も居なくなった境内。
裏山でホトトギスが鳴く。
一期一会の至福のとき。
春の訪れを感じるこの瞬間が、
とびっきり嬉しかったりする。