鎌倉好き集まれ!JUNEさんの鎌倉リポート・第51号(2005年5月7日)
In bygone days
鎌倉を歩いていると、
あくまで自然で、
あまりにさりげない草花に、
はっと驚かされることがある。
とてもとても遥か昔、
母にくっついて買い物に出かけた帰り道、
山吹にまつわる太田道灌の故事を、
然も誇らしげに教えてくれたことを思い出す。
あのときも、
こんな苔むす小路に、黄色い花が風に揺れていた。
山吹は、
面影草、鏡草とも呼ばれる。
昔、添い遂げることのできない男女が、
互いの面影を忘れないように鏡に映し合い、
土の中にその鏡を埋めると、
やがてそこから美しい山吹が生い茂ったとか。
古来より山吹は結実しないといわれたが、
一重咲きには実がなるという。
「やっぱり山吹は一重が好いわね」
垣根から細く伸びた枝葉に手を触れながら、
母は独り言のように呟いた。
今になって初めて、
ちょっぴりわかったような気がする。
勧画館の石段から後方を振り向くと、
竹薮の窪みに石仏が坐していた。
無畏施のお顔は、
日々安かれ--と囁いているように見えた。