鎌倉好き集まれ!KIさんの鎌倉リポート・第151号(2009年3月23日)

【レポーター3周年】日本三大八幡宮としての鶴岡八幡宮

KIです。
今回は私事を交えて大変恐縮なのですが,去る3月15日,こちらのレポーターを始めてからちょうど3年が経ち,レポート更新も150回を数えました。レポートを書き重ねるうち,テーマごとにシリーズ化したものがいくつかありましたが,前回で手持ちのシリーズものはすべて完結しました。レポーターとして一つの大きな区切りに達したのではないかなと感じる次第です。

さて,前置きの挨拶はこのくらいにして,今回はレポーター3周年の区切りに,つい前回完結したシリーズ『鶴岡八幡宮のルーツを旅して』で多々ふれた鶴岡八幡宮について今一度,語りたいと思います。といっても,ルーツや歴史のお話ではなく,これまで幾度となく拝観してきたこの神社について自分が持っている印象なり感想を述べようと思います。

宇佐神宮,石清水八幡宮,そして鶴岡八幡宮

しばしば日本三大八幡宮のひとつに数えられる鎌倉の鶴岡八幡宮ですね。これより,この三大八幡宮の写真をお見せしながらお話しましょう。
 自分は,宇佐神宮には2008年4月に参詣し,石清水八幡宮は2007年1月と2009年2月の2回,参詣しました。そして,鎌倉の鶴岡八幡宮には数え切れぬほど参詣していることはこれまでの自分のレポートが示している通りです。

【日本三大八幡宮の筆頭,宇佐神宮】

 

【日本三大八幡宮の次席,石清水八幡宮】

【日本三大八幡宮の三席,鶴岡八幡宮】

そして,三大八幡宮を実際に見た一口感想を述べれば・・・

いずれの八幡宮も大きくて色鮮やかで見ごたえがあった

・・・なのですが,それだけだとこのまま話は終わってしまいますので,もう少し詳しく比較しながらお話しましょう。
 
まずは,神社の大きさ。
さすがに三大八幡宮とされるだけあって,いずれも規模が大きくて,境内にはいくつもの神社(摂社)があったりするのですが,境内が広い順番に並べれば以下のとおり。

宇佐神宮 > 石清水八幡宮 >> 鶴岡八幡宮

1位の宇佐神宮は,入口の大鳥居から本殿(上宮本殿)まで徒歩30分以上かかります。町がひとつすっぽりと入るのではという大きさの広大な境内をくまなく散策すれば丸1日を要します。
 そして2位の石清水八幡宮は,男山の全体が境内となっていて,山麓から本殿がある頂上までケーブルカーがありますが,階段を徒歩で行けば本殿から山麓までは20~30分ほど要します。全体をじっくり散策すれば3時間前後といったところです。
 3位の鶴岡八幡宮ですが,前の2社に比べると小さいです。立派な獅子狛犬が守る二の鳥居,段葛から三の鳥居を経て舞殿そして石段の上に鎮座する本殿へ至るのには,普通に歩いて15分前後。そして,本殿を参拝し,境内社の白旗神社や弁財天を参拝した後、池のほとりの御茶屋で軽食しながら散策しても,かかる時間は1時間前後といったところでしょう。
 鶴岡八幡宮は古都鎌倉を象徴するに相応しい規模を備えているのですが,それをはるかに越える広大な敷地を有する宇佐神宮や石清水八幡宮はある意味,圧倒的な存在感ではありますね。

【朱塗りの舞殿と本殿のコラボが印象的】

【2008年夏のぼんぼりまつり】

しかしながら,規模だけが全てではありません。
 そう,鶴岡八幡宮には,巨大な宇佐神宮や石清水八幡宮にはない特色が備わっていると思います。

そのひとつは,1191年の再建以来とされる上宮・下宮の配置。現在も舞殿(下宮)から石段を登ったところに本殿(上宮)があり,右上写真のように舞殿の上に本殿が乗っているように見えます。三の鳥居から細くまっすぐ伸びた石畳の参道から眺めるその姿はなかなか芸術的で,いつ訪れても多くの参拝客がケータイやデジカメで記念撮影しています。

殊,ぼんぼりまつりの時など大変絵になりますね。(右下写真)

宇佐神宮や石清水八幡宮の本殿も確かに壮麗なのですが,鶴岡八幡宮の舞殿と本殿が上下に並んだ景観美は本当に何度見ても感嘆する次第です。

自分はこれまでにいろいろな神社を見てきましたが,なかなかこれに勝るような社殿の光景と他に出会えていません。

【4月下旬,赤い社殿に銀杏の新緑がまぶしく】

【12月には迫力満点の黄葉が社殿に映えます】

そして,鶴岡八幡もうひとつの特色は四季折々の風景のすばらしさ。

石段の大銀杏,河津桜

鶴岡八幡宮の場合,よくここまで計画的に配置したものだと思うくらい,朱塗りの立派な社殿と四季を彩る植物とのコラボレーションがまた絶妙なのです。
 暖春の候には,銀杏の新緑がまぶしく,晩秋にはその銀杏が黄葉して朱塗りの社殿に映えます。そして,銀杏が散った後,こんどは寒の頃,石段の反対側にある早咲きの河津桜が本殿をピンクに飾ります。
 以下に,季節ごとの鶴岡八幡宮の写真を一同に並べますのでご鑑賞ください。 

【2月下旬になると,河津桜が満開に】

【満点のピンクも存在感十分です】


正面から,二段構えにそびえる朱塗りの本殿と舞殿。それを旬の色彩で飾る銀杏や桜。

壮麗を誇る宇佐神宮や石清水八幡宮の本殿境内にはあいにく四季感をかもし出す植樹はなく,これほどに優れたビジュアル性は見出せませんでした。
 畏れ多くも神域を引合いにして何事を言うか,と神社関係者の方からお叱りを受けるかもしれませんが,景観美の順に,今回の日本三大八幡宮を並べれば以下のようだと自分は思います。

鶴岡八幡宮 >> 宇佐神宮 ≧ 石清水八幡宮
鎌倉時代の古典「とはずがたり」には,石清水八幡宮と鶴岡八幡宮を比較した記述があります。

所のさまは、男山(をとこやま)の景色よりも、海はるかしたるは見どころありともいひぬべし

(出典:とはずがたり巻4.『鎌倉の展望,鶴岡八幡宮』)


ここでは境内の中ではなく,社殿から見渡せる風景について,石清水(男山)より鶴岡八幡宮が見どころがあると述べているわけです。現在の若宮大路あたりは「とはずがたり」が著す13世紀末の状況とはだいぶ異なっているので,さすがに「海はるかしたる」というわけにはいきません。でも,現在の鶴岡八幡宮の本殿から見渡す鎌倉市街の眺望もなかなかのものですね。
 また,引用箇所と同じ条の記載によれば,とはずがたりを執筆した二条の尼が訪れた当時,海辺の大きな鳥居からは若宮大路のずっと向こうにそびえる社殿が見えたのだそうです。見通しがよかったこともあるでしょうが,当時もきっと社殿が立派だったのでしょうね。
 軍事貴族が支配権の中枢を掌握した鎌倉時代でも,平安京の公卿の間では,鎌倉の武家政権の人々を無粋者,文化教養に疎い輩だと風評する向きがあったらしいことなど,御成敗式目の序文などからもうかがい知ることができます。しかし,「とはずがたり」に記された鶴岡八幡宮(新八幡;しんやはた)の描写と現在の鶴岡八幡宮の社殿を併せ見れば,社殿を建てた源頼朝をはじめ,鎌倉軍事政権の担い手たちはなかなかハイセンスな芸術家だったんじゃないかなと感じるのは自分だけでしょうか。

              2009年3月23日 KI

【晩秋,鶴岡八幡宮の本殿からの眺望】